2012年12月2日日曜日

将来のキャリアに悩むということ

Class of 2013のYasです。

本投稿は、アプリカントの方のエッセイ執筆やインタビュー準備に直接役立つ内容ではないかも知れません。しかしながら、留学後、さらには卒業後までを見据えた中長期的なキャリアについて考えて頂く為の一助となればと思い、公開するものです。お時間がありましたら、どうぞ最後までお付き合い下さい。

さて、「将来のキャリアに悩むということ」と題した今回の内容は、本質的には「MBAの価値はどこにあるのか?」という、これまでボロ布の如く散々議論されてきたテーマを扱っています。この問いに対する答えは三者三様で、万人向けの結論が出せるものではありませんが、私の持っている考え方の1つは「キャリアについて真剣に悩み、将来のキャリアの方向性を見出すこと」にあるのではないかというものです。以下では、そのことについて具体例を交えながらお話したいと思います。

時を遡ること今年(2012年)の5月、サマーインターンで日本に一時帰国していた際に、新たにMBAに留学される方々をお招きして、MBA留学生の就職活動に関するセミナーを実施させて頂きました。参加者の皆様のご支援のもと、欧米のビジネススクールに私費留学される総勢20余名の方々にご出席頂き、大変好評を得ることができました。そのご縁などもあって、ここ2ヶ月の間に20名弱の現役MBA生の方々から、就職活動や将来のキャリアに関するご相談を受けてきました。その中から、2つの事例を紹介させて頂きます。



Aさんのケース

Aさんは日本において戦略コンサルタントとしてのキャリアを積んで来られた後、欧州のビジネススクールに私費留学されています。就職活動は順調に進み、米系戦略コンサルティングファーム数社(東京オフィス)、日系事業会社の事業投資ポジション、アジアに拠点を置くプライベートエクイティファンドなどのオファーを獲得されました。そんな折、Aさんからご連絡があり、キャリアの最終的な選択に当たって参考意見を聞きたいとのことで、Skypeにて2時間ほどお話をさせて頂きました。

私の理解では、Aさんのキャリアにおける主な関心は、「グローバルなビジネスで通用する力を身に付けること」「事業経営に必要な能力・素養を磨き、成長すること」「前者2つを実現する上で刺激になる優秀な仲間と仕事ができること」にありました。

それらを踏まえた上でのAさんが抱かれていた悩みは、「米系戦略コンサルティングファームに行けば優秀な人達との人脈は広がり、職務経歴としてもグローバルに通用するものを構築できる一方で、仕事の内容は前職とほぼ変わらないという点では、あまりキャリアアップにはならないのではないか?」「日系事業会社の事業投資ポジションは、仕事内容としては魅力的だが、せっかく海外でMBAを取ったのに日本の大企業に入ってしまえば、昇進や給与の上昇は大変遅いことが推測され、果たしてキャリアアップにつながるのか?」というものでした。

色々とお話を伺った上で、私からは、「どの企業に就職したとしても、一生そこで働くということは無いのでは」「その前提であれば、自分のやりたい仕事に最も近いポジションはどれかを精査し、そこで数年間働いて自分を最大限成長させるというオプションを選択するのが良いのではないか」とお話しました。また、その基準に鑑みて、日系事業会社の事業投資ポジションがそのオプションに近いという印象を持ったことをお伝えしました。

数週間後、Aさんは最終的に米系コンサルティングファームの中の1社に就職することを決められました。私と話をした中で有力なオプションであるように感じられた日系事業会社を選択できなかった理由としては、「私達の会社には事業経営ができる人材はいない」と、その会社の人事部の方が明確におっしゃったことにあったと聞いています。

人の意思決定プロセスは言葉で説明し切れるほどクリアなものではありませんが、Aさんが今回、将来のキャリアについて悩んだ上で下された判断は、「海外も視野に入れた事業投資の仕事は大変魅力的ではあるが、自身の事業経営の能力・素養を磨く機会や、そうした成長を促進してくれる優秀な同僚には替えられない」というものではなかったかと理解しています。

ひょっとしたら数年後、Aさんはまた同じようにキャリアの選択を迫られる場面に遭遇するかも知れません。しかし、今回のMBA留学を経て「今後30年を左右し得るキャリアの選択」を経験したことにより、Aさん自身が何を軸にキャリアを選択・構築しているのかをある程度明確にできたことは、大きな価値があったのではないかと私は捉えています。

Bさんのケース

Bさんは外資系プロフェッショナルファームの東京オフィスにてマネジャーとして数年間活躍された後、アメリカのビジネススクールに私費留学されています。就職については、日系事業会社からMBA卒業生向けの特別なポジションを用意してもらうというオプションを引き出されている一方で、起業することにも留学前から強い関心を持たれていました。

Bさんのキャリアにおける関心は、「今後成長の著しい分野でインパクトの大きな仕事をすること」「自身の強みや前職での経験を活かせるポジションに身をおくこと」「30代でマネジメントポジションに就けること」「業績に見合った大きな報酬を得られること」でした。

Bさんは、上記事業会社に就職した場合と自身で起業した場合のリスク・リターンの比較の狭間で悩んでおられました。私は、Bさんのご専門についてあまり詳しい訳ではないのですが、Bさんが自身の経験を活かしながらも、大手のプロフェッショナルファームと直接競合することを避けながらビジネスを継続していくためには、非常にニッチな分野を狙って起業する必要があると伺っています。この場合、あまりインパクトの大きな仕事をする事はできない懸念があります。また、Bさんによれば、その分野における起業のリスクは比較的小さいものの、期待できる報酬のレベルも目標としておられる報酬水準には一歩及ばないという問題もあります。

他方、Bさんがオファーを獲得された日系事業会社は、いわゆる攻めの経営で知られていることから、実力さえあればマネジメントポジションへの積極登用も期待でき、相応の報酬を得られるのではないかと見込んでおられます。しかしながらBさんは、組織風土とのミスマッチや、経営者の交代に伴う経営方針の変更、積極経営の反動としての業績悪化など、何らかの理由によりマネジメントポジションへの昇進が絶たれた際のリスクを大きく見ておられ、まだ即断はできないという状況でした。

結論から言うと、Bさんはまだ決断には至っておられません。私がBさんとお話した際に申し上げたことは、「仕事のインパクトとそれに伴う報酬がご自身にとってのプライマリファクターなのであれば、例え周りが何と言おうとも、日系企業からのオファーを受諾してマネジメントポジションを目指すのが筋なのではないか」「と同時に、もしも起業することに大きな価値を見出されているのであれば、たとえ報酬水準の現在期待値が目標に達していなかったとしても、今起業に踏み出すことが(いかなる結果を招こうとも)最適解ではないか」ということでした。もし皆さんであれば、どのようにお考えになるでしょうか。



少し回り道をしたかも知れませんが、Aさん・Bさんの事例を通して私がお伝えしたかったことは、MBA留学という機会を得ておられなければ、こうして将来のキャリアについて思う存分悩むことができる為のリソース(時間、選択肢)を得ることは大変難しかったのではないか、ということです。換言すれば、冒頭にも書いた通り、MBA留学の大きな価値の1つは、将来のキャリアについてじっくりと考え悩み、卒業後30年のキャリアの方向性を見定めることにあると思っています。今後MBA留学を目指される皆さんが、留学を通して将来キャリアの方向性を明確にされ、その実現に向けてご活躍されることを願っています。

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